旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 それに、彼女から敵意は感じなかった。ジョアンがここまで連れてきた時点で彼女は敵ではないのだが――
 マルガレットでもシャトランでもない。長い時間を共に過ごした彼女たちだから、こうやって顔を隠されても雰囲気でわかる。
 彼女が帽子をとると、パサリと隠されていた髪が流れた。それは、夜明けの空を表す明るい黄色かかった赤色の曙色。
 アーネストは息を呑んだ。
「旦那さま、お会いできて光栄です――」
 スカートの裾をつまんで挨拶をした姿は、十二年前に初めて顔を合わせたときを思い出す。
「オレリア……か?」
「はい、オレリア・クワインでございます」
 アーネストはまじまじと彼女を見つめた。背は、当たり前だが高くなっている。碧眼の目はぱっちりと二重で、艶やかな唇は蠱惑的に微笑んでいた。体つきもぐっと魅力的になっており、ドレスの胸元は大きくあいてはいないものの、その豊満な胸を隠しきれていない。腰のくびれも、伸びた背筋も、おもわず目を奪われてしまうほど美しい。
 何か喋らなければならないのに、言葉が出てこない。
 二人の間に沈黙が落ちた。
 外からは兵士たちの訓練の号令が聞こえてくる。
「旦那さま?」
 呆然とオレリアを見つめるアーネストを怪訝に思ったのか、彼女はコテンと首を傾げた。
「どうされました?」
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