旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「すまない……まさかお前がここに来るとは思っていなかったから、驚いた」
 それは偽りのない本心である。まさかオレリアがガイロの街に来るとは思っていなかったし、ダスティンやデンスがそれを許すとも思えなかったのだ。それよりも先に、マルガレットやシャトランを送りつけると思っていた。
「先触れも出さずに申し訳ありません。ですが、陛下がおっしゃっていたのです。わたしがアーネストさまに会いに行くと知ったら、アーネストさまは間違いなく逃げるって」
 さすがダスティンである。アーネストのことをよくわかっている。
「今日、こちらへ来たのは、この件です」
 つかつかと彼女がアーネストの執務席に寄ってきて、バンと机の上に書面をたたき付けた。机の上の書類が、ザザーッと崩れ落ちるが、オレリアはそれを気にする様子はない。
「離縁したいって、どういうことですか?」
 言葉の節々ににじみ出ているのは怒りだろうか。
「どうもこうも、そこに書いた通り、俺たちは離縁しよう」
「意味がわかりません」
 バンともう一度机を手のひらで叩く。崩れた書類の束が、さらにざざっと崩れた。
「お前も二十歳になった。他に好いた男の一人や二人、いるのではないか?」
「アーネストさまは、どうしてそう思われるのです?」
 どうしてと問われても、十二年間も放置していたのが理由だ。彼女を巻き込みたくはないがために、何もしなかった。
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