旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 冷え冷えとした風が心を凍り付かせた。それでも血が通うような気持ちを次第に思い出させてくれたのが、オレリアの手紙なのだ。オレリアの手紙で、アーネストは人としていられた。
 内容としては、特別なことが書かれているわけではない。アーネストを思う言葉と、オレリアの近況。たったそれだけなのに、心が救われたのは事実。
「オレリア。俺の側にいてくれてありがとう」
「それって……どういう意味ですか?」
 彼女は別の言葉を待っている。アーネストもそれをわかっていて、わざとそう言った。少しだけ、恥ずかしいという気持ちもあったから。
 彼女の淡雪のような白い顎をとらえ、こちらを向かせる。吸い込まれるほどの碧眼に魅入られながらも「愛している」と呟く。
 庇護欲がいつ愛情へと変化したのかはわからない。それに気づかぬふりをしていたのも間違いない。年の差、立場、罪、すべてを言い訳にして、彼女に相応しくないと勝手に評価をつけていた。
 そんなアーネストを受け入れてくれたのがオレリアだ。ひたむきに十二年間も待ってくれた。
 静かに唇を合わせる。
 花のような甘い香りが、アーネストを魅了する。わけのわからない酩酊感に襲われ、自我すら手放しそうになる。
 ――コンコンコンコン、コンコンコンコン……
 しつこく扉を叩く音で我に返ったアーネストは、名残惜しいながらも彼女の唇を解き放つ。
「そっちに座っていろ」
 長椅子に彼女を座らせてから扉を開けた。
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