旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 キッチンにはパンの焼ける香ばしいにおいが漂ってきた。それから豆と鶏肉のスープと野菜サラダを作る。パンが焼けたら、粗熱を取って、ソースにつけたソーセージと野菜を挟む。
「美味そうだな」
 いつの間にか、汗を流したアーネストが後ろに立っていた。襟足が少しだけ濡れており、肩にかけたタオルにしずくが滴る。微かな石けんの香りが、表現しがたい色気を放つ。
 ドキリと胸が高鳴った。いつもと違うアーネストの姿を目にするたびに、オレリアの心臓はうるさくなる。
「アーネストさま。髪がまだ濡れておりますよ。これでは、風邪をひいてしまいます」
 タオルを奪い取って、濡れている髪をやさしく拭う。
「なるほど。髪を濡らしたままでいれば、オレリアがこうやって世話を焼いてくれるんだな」
 鼻先がくっつくくらいに顔を近づけられ、今度は心臓がドキドキと速くなる。
「あ……アーネストさま。ミルコ族は自分のことは自分でするが基本ですよね」
 手にしていたタオルをアーネストの頭にぽふっとかけたオレリアに、アーネストは笑いかける。
「自分のことは自分でやるが、家族のことを家族で助けるのもミルコ族だ」
 頭をオレリアに寄せて、拭いてくれと言っているかのようにも見えた。
「わたし、ご飯の準備がありますから。アーネストさまも、身体を動かしてお腹が空きましたよね」
「残念。逃げられたな」
 アーネストは髪を拭いてから、席についた。オレリアはせっせとテーブルの上に朝食を並べる。
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