旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 アーネストは綿のシャツにパンツ姿である。色合いも地味な朽葉色。それに濃い茶色の上着を羽織って、軍人には見えない。酒場で管を巻いているような、どこにでもいるような男性なのだが、それでもオレリアにとっては特別に見えた。
「はい」
 オレリアはアーネストの手を取った。剣だこのあるごつごつとした手がオレリアの手を大きく包み込む。
 人目を避けるようにして、裏口を使って軍敷地から出た。
 空がすっきりと青く、薄い雲がところどころ散っている。太陽は金色に輝いて、やさしい光を地上に届けていた。暑くもない、穏やかな天気である。
「あ、あそこが食堂ですね」
 目の前に現れた、茶色の外壁の大きな建物。数日前までオレリアが働いていた食堂であるが、見る角度がかわるだけで、雰囲気が異なって見える。煙突からは白い煙がもくもくと切れ間なくあがっていた。
「そうだ。支部棟と食堂はつながっているからな」
「わたしはいつも食堂の裏口から出入りしていたので、実は正面から出入りしたことがなくて」
「正面から右側に行けば、広場に出る。以前、お前と待ち合わせをした場所だ」
 あのときは、夜遅くまで働いていてアーネストが家まで送ってくれると言ったのだ。
「広場に行きたいです」
 アーネストを見上げ、はっきりとした口調でそう言えば、彼は少しだけ口元をゆるめる。
 オレリアにとって、広場はアーネストとの思い出の場所でもあるのだ。
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