旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「……アーネストさまは、どうしてあのとき、リリーを送ってくれたのですか?」
 つないだ手から、アーネストの動揺が伝わってきた。だけど、表情からそれを読み取ることはできない。
「あんな夜遅くに、女性を一人、外を歩くのは危険だと思ったからだ。現に、お前は襲われたじゃないか」
 そう言われてしまえば言い訳はできない。
「だが、あのとき。一度、お前を送ったことがあったから、すぐに助けられた」
 偶然であったとしても、あの場にアーネストが駆けつけてくれてよかったのだ。やっぱりこの手は離したくないと、オレリアはきゅっと力を込める。
 アーネストも何か思ったのか、少しだけ鉄紺の瞳をオレリアに向けたが、すぐに広場のほうを見る。
「お、今日は道化師がいるみたいだな。屋台も出てる」
 オレリアも広場に顔を向け、噴水の前でなにやら芸をしている道化師に心を躍らせる。
「アーネストさま。わたし、あれを見たいです」
 首都サランは、人が多くごちゃごちゃとしている街であるため、外で芸をすることは禁じられている。
 トラゴス国にいたときは、住んでいた小屋の周辺しか足を延ばしたことがないため、あそこの王都がどのよう街並みみであるかなど、まったくわからない。
「ああ、行ってみよう。だが、オレリア……」
「はい」
「俺のことをアーネストと呼べ。せっかく、変装してきているのに、お前がそうやって俺を呼んだら他の者に知られてしまう」
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