旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「あの方、大丈夫なのですか?」
 剣を丸飲みして、怪我をしないのだろうか。
「ああ。彼はプロの道化師だからな。こうやって俺たちをヒヤヒヤさせるのが仕事だ」
 そう言われても、剣を丸飲みする人間なんて初めて見た。胸がバクバクと締め付ける思いに、オレリアも無意識のうちに身体を強張らせる。最前列の子どもたちですら、シンと静まり返り、剣が飲み込まれていく様子を見守っている。
 剣をすべて飲み込んだところで、道化師は空を見上げたまま両手を広げた。噴水がひときわ高く、ぴゅっと水を噴き上げる。
「おぉ~」
「すごぉい」
 驚きの声と拍手がまばらに聞こえ始めるが、まだ半分以上の人はあっけにとられている。
 剣を飲み込み終えた道化師は、今度はその剣を口からゆっくりと引き出していく。飲み込んだときと同じようにゆっくりと。
 すべての剣が出てきたときには、次から次へと小銭が道化師に向かって投げられた。
 オレリアも夢中で小銭を投げる。
 それからも道化師は演技を続けた。三十分ほど続いただろうか。そこですべての演技が終わった。
「すごかったです」
 アーネストの腕にひしっとしがみついて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。気持ちが浮ついて、自然と身体も跳ねてしまう。
「そうか。俺としてはお前がそうやって喜んでいる様子を見るほうが、楽しいが」
 人がさぁっといなくなっていく。青い空の下、噴水だけはかわらず水を噴き上げていた。
< 152 / 186 >

この作品をシェア

pagetop