旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「指輪を贈りたいのだが」
 結婚の指輪はサイズが合わなくなって、鎖に通し首からかけていた。だから、男から言い寄られたときにはそれを見せたのだが、やはり効果は薄かった。むしろ、ないに等しく、結局あのようなことになったのである。
「嬉しいです」
「そうか」
 穏やかな声で呟いたアーネストの手は、あたたかい。ふと、今になって気がついた。彼はずっと、歩調をオレリアに合わせている。足も長くて歩幅も違うのに、オレリアがいつものペースで歩いていたのは、アーネストが合わせてくれているから。
 また一つ、アーネストのいいところを知ってしまった。
 ふわっとやわらかな風が吹き、オレリアの帽子を持ち上げた。
「あっ」
 帽子が浮いたところを、すぐにアーネストが捕らえたが、オレリアの髪は無造作に広がる。慌てて髪を押さえて、アーネストから帽子を預かった。
「この場所は、土地柄のせいかときどき強い風が吹くんだ」
 ガイロの街全体が風が強いのではなく、今歩いている大通りだけとのこと。建物の並びもよくないらしいが、その風がさまざまな偶然を運んでくるため、妖精のいたずらとも呼ばれている。
 今のように帽子を飛ばされた者と帽子を拾った者、飛ばされないようにとしっかりと手を握りしめる恋人同士、妖精のいたずらの洗礼を浴びた二人は、末永く幸せに暮らすとも言い伝えられている。
「素敵なお話ですね」
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