旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 ガイロの街の面白いところは、住んでいる区によって、それぞれ何を求めているかがわかるところだろう。二区に雰囲気のよいお店が多いのは、単身で暮らしている者が多いというのも理由だ。そのためここは、夜間になると見回りの兵も多い。
 それに引き換え三区は、子どもが集まるような場所には兵を多く配置するものの、夜遅くに出歩く人も少ないため、夜間の見回りは一区や二区と比較しても手薄になる。
「ここのレストランなら、お前も気に入るだろうと思ってな」
 煉瓦造りの建物は、黒い窓枠がアクセントになっている。窓から見える内装は茶系統で統一され、どことなく落ち着きがある。
 はっきりいって、アーネストはどこのレストランが美味しいとかどこの茶店が有名だとか、そういった情報に疎い。恥を忍んでジョアンに尋ねたところ、彼が「奥様とのデートにぜひ」と喜んで教えてくれたのがこの店なのだ。普段から仕事のお供のおやつをまめに買っているような人物は、やはりこじゃれた店に詳しかった。
「アーネストは、なんでも知っているんですね」
 ジョアンから教えてもらったことは言いたくなかったため、笑ってごまかした。
 店内に入ると、じゅっと肉の芳ばしいにおいが食欲を刺激する。品のいい店員に案内され、窓際の席へと座る。
「食べたいものはあるか?」
 アーネストが尋ねると、オレリアは恥ずかしそうに頬を染める。
「遠慮する必要はない。たまには、こうやって外で食べるのもいいだろう。いつもお前にはご飯を作ってもらっているし」
「……デザートを食べたいです」
 アーネストはひくりとこめかみを動かした。
「わかった。デザートも頼むが、きちんと肉も食べろ。いつも思うのだが、食べる量が少なくないか? お菓子ばかり食べていないか?」
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