旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 トラゴス国との戦いよりも、オレリアを攻略するほうが難しいのかもしれない。だからこそ、彼女から目が離せなかった。
 ジョアンから聞いていた菓子店に向かおうとしたが、アーネストは行き先を変更することにした。
「オレリア、悪いが付き合ってくれないか?」
 どこに? とでも言いたげに、彼女は首をこてんと横に倒す。
「ほら。ガイロの警備を強化する話は前にもしただろ? それで少し、一区と二区を実際に見て回りたいんだ。お前と一緒に歩いたほうが、自然だからな」
 せっかっくのお出かけであるのに、このようなことを言い出したアーネストに対して不機嫌になるかと思われたオレリアだが「帰りに、お菓子を買ってくださいね」という一言で快諾する。
「悪いな、俺につきあわせて」
「いいえ。アーネストと一緒でしたら、どこでもいいんです。一緒にこうやって歩いているだけで、楽しいので」
 そのようなことを言われれば、アーネストだって悪い気はしない。だから、胸にチクリと針が刺さるような痛みを感じた。
 しっかりとオレリアの手を握りしめ、一区を歩く。ここは、独身であるが収入の低い者たちが住んでいる地区で、納める税金が一番安い。そのため、住宅も集合住宅が多くなっている。
 それも通りに面したところだけで、奥に行けば建物はなくなり、寂しい場所になる。ずんずんと進むと、目の前には白壁が広がる。
このような場所に用がある者などいない。いるとしたら、この白壁を乗り越えて不法入国なり出国する者たち。ここに見張りの兵はいないが、壁の向こう側には見張りを配置している。この裏側は、ちょうど関所の監視所がある場所になっている。それでも壁を乗り越えようとする者は、年に数人はいるのだ。
「オレリア。俺の後ろに隠れていなさい」
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