旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 白壁を背にし、さらにオレリアをかばうようにしてアーネストは振り向いた。彼女は小さく頷いて、アーネストの背中側にまわる。
 ここ最近、誰かにつけられるような感じがしていた。オレリアを狙っている変な男かと思ったときもあったが、どうやらそうではないらしい。
 オレリアを狙っていたのは食堂の客だった。
 しかしアーネストを尾行していたのは、そんな素人ではない。ある程度、訓練を積んだ者だ。それでもアーネストに気づかれたのだから、たかが知れている。はずなのだが。
「朝から俺たちをつけまわして、いったい、なんの用だ」
 腹から響く低い声で、姿を見せない者に向かって問いかける。
 アーネストが急に目的地を変更したのは、その者たちをおびき寄せるためでもあった。さすがに人通りの多い場所で暴れては、関係のない者たちまで巻き込んでしまう。
 オレリアを連れていることだけが心配であったが、彼女と離れたら離れたで、彼女を狙ってくるかもしれない。
 ひゅぅっとぬるい風が吹いて、アーネストの前髪を揺らす。背後からはオレリアの息づかいが感じられたが、彼女が騒いだり泣いたりしていないことに安堵する。怖い思いをさせている。
 オレリアを一人にはできないと思いつつも、近くにいすぎても彼女を巻き込んでしまう。
 アーネストはぎりっと奥歯を噛みしめた。
 相手に隙を見せぬよう、睨みをきかせる。
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