旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「お……オレリア様。何をしているのですか!」
 いくらアーネストであっても、女性に剣を向けることはしない。体当たりでプレール侯爵夫人をオレリアから引き離し、オレリアを腕に抱く。
 アーネストに飛ばされたプレール侯爵夫人を、側にいた男が支えたが、その彼からはもう敵意を感じられず、死んだ魚のような濁った目をしていた。
 呼子笛の音を聞いた兵たちが集まってくる。ある兵は走って、ある兵は白壁を乗り越えて。
「連れていけ」
 平服であったとしても、彼らはアーネストをアーネストとわかったようで、その言葉に従い、倒れていた男たちを捕らえる。プレール侯爵夫人も連れていかれた。
 アーネストは駆けつけた兵に指示を出したものの、彼自身はこの場にとどまった。
 残されたのはオレリアとアーネスト、そしてここで争いが起こったと思わせる血だまりの跡。
「アーネストさま……」
 オレリアの声は、ひどく掠れていた。叫んだわけでもないのに声が出なかった。
「なんだ」
 普段と変わらぬアーネストの声であるが、少しだけ震えているようにも聞こえた。
「アーネストさまが、お父さまとお兄さまを?」
「ああ。処刑した。俺があいつらの首を落とした。その首を一か月間、城門に晒した。トラゴスの王がかわったことを、国民に示さなければならないからな」
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