旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「それで、プレール侯爵夫人……もう、侯爵夫人ではありませんね。プレール夫人はどうなったのですか?」
 あれから十日が経ち、アーネストたちを襲ったトラゴス国の残党は、トラゴス国へと送られた。彼らの処遇はトラゴス国が決める。
 プレール夫人は前王派の人間で、なんとかして前王派の者を王位に就けようと、残党たちと企んでいたようだ。前王派の人間はほとんどが処刑され、女性や子どもたちは修道院へと送られたのだが、プレール夫人は残党の手を借りてそこから逃げ出した。
 残党たちがまず狙ったのはアーネストである。彼らからしてみれば、アーネストは恨みの対象だろう。彼が一人のところを襲えばなんとかなると思ったのか、残党らはアーネストをつけ回していた。しかし、アーネストもほとんどを支部棟で過ごすようなつまらない人間であったため、なかなか隙が生まれない。
 それが最近になって、女性と街中を歩く姿がたびたび確認されるようになり、彼らは機会をさぐっていた。相手の女性をさらっておびき寄せるなどの案もあったようで、とにかくアーネストの動きを監視していたのである。
 アーネストが連れ歩いている女性がオレリアだと知られたのは、彼女の髪の色が珍しいからだろう。
 オレリアは前王の娘。となれば、王に相応しい身分を持つ。
 プレール夫人は安易にそう考えたらしいが、正常な判断ができなくなるくらい、彼女も精神的に追い詰められていた。
 そうやってアーネストを尾行してオレリアを手に入れようとしたが、アーネストのほうが一枚上手であった。
「今回の件は、大変でしたね」
 白磁のカップをカチャリとテーブルに戻して、オレリアは他人ごとのように言う。あのとき、一番巻き込まれた張本人であるにもかかわらず、彼女にとっては大した問題ではないのだろう。
「まあ、これでようやく一息つけたところだな」
 それでもオレリアの目の前で腕を組んでいるアーネストの表情は険しいままだった。
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