旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「アーネストさま。どうかされました?」
「……いや」
「アーネストさまのことですから、また、何かしら変なことをうだうだと考えていそうな気がするのですが。わたしとしましては、お父さまのこともお兄さまのことも、まったく気にしておりません。アーネストさまにはきちんとお伝えしていなかったかもしれませんが、わたしはトラゴスではいない者のように扱われていたのです」
 母親が亡くなってからどのような扱いを受けていたのか、それを彼に伝えたことはない。
 オレリアがハバリー国に来て、アーネストがガイロへ発つまでの間、そのような深い話をするような関係も築けなかったし、時間もなかった。まして、手紙で伝えるような内容でもない。
 トラゴス国でどのように過ごしていたのかを、屈託なくさらりと話をするオレリアに対して、アーネストは眉間に深くしわを刻んでいく。
「そうだったのか」
 まるで苦虫を潰したような顔をする。
「ですので、アーネストさまが気にされる必要は、まったくございません」
 ぴしゃりと言ってのけたオレリアだが、実のところ、アーネストから父親たちの最期の話を聞いたときも、まるで遠い異国の出来事のような感覚だった。本来であれば、泣いて、わめいて、アーネストを責めるのが正しい反応なのかもしれない。しかし、オレリアにはそういった感情がいっさい沸き起こらなかった。
 それを薄情だと言うのであれば、オレリアは薄情な人間でかまわない。
「アーネストさまは、そんなわたしを軽蔑されますか?」
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