旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「しばらくはこちらで、花嫁となる準備に励みなさい。まぁ、あそこは蛮族の集まりですから、あまり礼儀にはうるさい国ではないと思いますけどね」
 真っ赤な唇が、不気味に弧を描く。
「王妃さまのお心遣い、ありがたくちょうだいいたします」
 オレリアの言葉を聞いた王妃は、満足そうに微笑んだ。
 どちらにしろオレリアの意見なんて聞き入れてもらえないのだ。だったら、彼らの言うことを素直にきいたほうが、精神的にも体力的にも、無駄がなくてよい。
 その日のうちから、王城の一角にオレリアの部屋が与えられた。
 場所がかわっても、相変わらずメーラが侍女として側にいてくれる。それだけが、オレリアにとっては心の支えとなっていた。
「オレリア様」
 目頭に涙をためて、メーラがひしっと抱きしめてきた。
「オレリア様はまだ八歳ですよ? それなのに、ハバリー国に嫁ぐだなんて……」
 メーラの言いたいことはよくわかる。八歳の娘が他国に嫁ぐのは、人質のようなものだ。いや、今回の場合は間違いなく人質である。このふざけた結婚を言い出したのがどちらからかはわからない。しかしオレリアがハバリー国に嫁ぐことで、トラゴス国はハバリー国の協力を得やすくなる。
 トラゴス国内では、いたるところで小競り合いが起こっていた。それを鎮圧するために各地に兵士が投入され、今では戦力も落ちつつあるのは、オレリアもなんとなく知っている。
 このまま戦力を落とせば、トラゴス国をよく思っていなかった諸国が、一気に戦争をしかけてくるかもしれない。
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