旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 馬車が大きく揺れて止まった。それと同時に、オレリアの心臓も止まるのかと思うくらい、驚いた。
「安心してください、オレリア様。私がお側についておりますから」
 馬車の扉が外側から開けられ、そこから差し込む日の光で思わず目を細くする。
「手を……」
 目が慣れたころ、軍服姿の一人の大柄な男性が、手を差し出した。その手をとって外に出ろという意味だろう。
 だけど、オレリアは違和感を覚えた。これは、ハバリー国に入ってから、ずっと感じていたものでもある。
 男の手は、メーラに向けられていた。
 メーラは困った様子で、ちらちらとオレリアに視線を向ける。
「オレリア王女殿下……?」
 いつまでも手を取らないメーラに、男も怪訝に思ったのだろう。
 オレリアは、大きく息を吸った。
「オレリアは、わたしです……。その女性は、わたし付きの侍女のメーラです」
 男はそのままの姿勢を保ちながら、顔だけオレリアに向けてきた。
 鉄紺の瞳と目が合った。彼は、じっとオレリアを見つめている。オレリアも負けじと彼を見つめ返した。
 ふと、彼の目尻がゆるむ。
「失礼した。オレリア王女殿下。手を」
 オレリアは差し出された男の手に、自身の手を重ねた。オレリアの倍もあるような大きな手は、皮も固くごつごつとしていたが、触れたところから伝わるぬくもりが心地よい。
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