旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 だからそれを理由に花嫁を変えてきたのかもしれない。
 トラゴス国はハバリー国王の側妃の座を狙っていた。だが、それはハバリー国内では法律によって認められていない。そのためアーネストがその話を受けたが、それがトラゴス国にとっては不本意であったのだろう。
 ふん、と荒々しく鼻から息を吐いた族長は、一気に酒を飲み干した。そしておかわりの酒を、瓶からグラスに自ら注ぐ。
「とにかく、俺はオレリアと結婚をする。俺と婚姻関係にあったほうが、彼女を守れるだろう」
 守るとアーネストが言ったときに、ダスティンは大きく目を見開いた。
「守る……いったい、何から彼女を守るというんだ?」
「彼女は子どもだ。子どもを守るのが大人の役目だ」
 そう口にしたアーネストだが、オレリアを守りたいと思った理由は他にもあった。それはおそらく庇護欲。
 不安定な彼女をこのままにしてはいけないと、心が強く動いた。
 幼い彼女が気丈に振る舞う姿を見たら、彼女がこうしなければならない理由も知りたくなった。それは好奇心かもしれない。
 そして、あのときの――ラフォン城を見上げて驚きながらも微笑んだ表情を、もう一度見たかった。あれは子どもらしい顔をしていた。赤ん坊をずっと見ていられるように、あの表情はずっと見ていたい。
 だけどそれらを、ダスティンや族長に教えるつもりはない。
「どちらにしろ……トラゴス国の王女がこちらにいる以上、彼らはハバリー国に手を出さないだろう。この結婚はそういうものだ」
 骨付き肉を手にしたアーネストは、それを勢いよくかみちぎった。こってりとした味が、口の中を支配する。
「……あなた」
 穏やかに声をかけたのは、族長の妻シャトランである。
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