旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 食事が終わり、アーネストは本館の三階へと足を向けようとして、やめた。アーネストもそこに私室をかまえている。
 しかし、オレリアの様子が気になっていた。先ほどの族長は大人気ないだろうとアーネストも思っていたのだ。
 あの場で彼女を追いかけて慰めるべきだったか。
 そう考えたが、彼女は全身でそれを拒んでいた。
 だからアーネストはあの場に残り、族長を納得させることに注力した。その結果がよかったのか悪かったのか、わからない。だけど、この馬鹿げた結婚を認める者の存在を知ったのは、心強いだろう。
 空はすっかりと闇に飲み込まれ、天窓から見える空には、星が数個輝く程度。
 回廊にはランプが等間隔で灯されており、歩く分には問題ない。それでも暗いこの空間を、彼女が一人で戻ったことを考えると、胸がズキリと痛んだ。きっと、周囲からは好奇の目を向けられたにちがいない。彼女が他の国からやってきたというのは、その髪色だけですぐにわかる。
 好奇の目からオレリアを守れなかったことを、悔やむ。
 離れの部屋の扉の前で、柄にもなく緊張して立っていた。ひんやりとした叩き鐘を手にしたまではよかったが、それを動かせずにいる。
 一夫多妻を認めていないハバリー国であるが、結婚できる年齢には決まりがない。十歳にも満たない子が、他家に嫁ぐというのは、働き手の確保や食いぶちを減らすといった意味で、昔から使われてきた手法でもある。
 アーネストとオレリアには二十歳の年の差があるが、ハバリー国が建国される前の各部族間では、十代の娘が族長の後妻になるという話も聞こえてきたものだ。
 それでも一夫一妻を貫く部族の教えは、誇らしいものだと思っている。
 コツ、コツとゆっくりと叩き鐘を鳴らすと、扉が開いた。
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