旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 確かにあのとき、彼を好いていた。それが、憧れなのか、尊敬なのか、愛情なのか。なんと呼ぶのが正しい感情であるかはわからない。ただアーネストと家族になれた喜びを、誰よりも強く噛みしめていたのだ。
 だから彼がガイロの街へ行くと言ったときも、彼から与えられた言葉を信じて待てると思った。
 ――次にアーネストさまとお会いする日には、立派な淑女として振る舞えるよう、努力いたします。
 そう言って見送ろうとしたとき、アーネストの大きな手はゆっくりとオレリアの頭をなでた。
 ――楽しみにしている。
 彼の言葉を胸に刻み、ダスティンとマルガレットの側で、この国にとって必要なことを学んだ。
 覚えることが多くて、根をあげそうになったときもあった。そんなときはアーネストに会える日を思い描き、けして弱音は口にしなかった。
 彼の手紙にも『大変です』『辛いです』と書いたことはない。会える日を楽しみにしている、どのようなことを学んだかなどを書き連ねていたが、残念ながらこの十二年間、返事は一度もきていない。
 それなのに、初めて彼からの言葉が届いたのである。
 逸る気持ちを無理矢理おさえて、口から飛び出しそうなほど暴れている心臓もできるだけ落ち着けようと試みる。
「オレリアを見ていたら、私のほうが緊張してきたわ」
 マルガレットは、口元に手をあて上品に微笑む。
 ペーパーナイフを差し込むものの、手がふるえてうまく封蝋を開けられない。
「もう、じれったいわねぇ」
 マルガレットもそわそわとし始め、封を開けようとするオレリアの手の動きを見守っている。
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