旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「わからん。だけど俺は、お前を守りたいと思った。迷惑か?」
 ふるふると首を左右に振る姿だけは、子どものように見えた。いや、彼女はまだ子どもである。
「マルガレットもシャトラン様――陛下の母親も、お前の味方だ。人質のようにハバリー国へとやってきたお前を案じている」
「人質……それは間違いないと思いますが、わたしには人質としての価値はないかもしれません」
 その言葉がしっくりとこなかったが、今、彼女に問いただす必要もない。まだハバリー国に来て一日目。移動だけでもだいぶ疲れただろうに。
「今日はゆっくりと休め。湯につかるか?」
 ゆったりと風呂に入れば、疲れもとれる。
「部屋はすべて見て回ったか?」
 離れの部屋といっても、二人で生活するには十分な広さがある。居間、寝室、衣装部屋、そして浴室。使用人のための控えの間を準備したのは、オレリアがトラゴス国の人間だからだ。少なくとも、アーネストにとっては不要な部屋である。
「はい。このような立派なお部屋を用意していただいて、感謝しかありません。アーネストさまは、他にも邸宅を持っていらっしゃるのですか?」
「いや。俺もここで暮らしている。ここが俺の家のようなものだ」
「ですから先ほど、本館で寝泊まりされているとおっしゃったのですね」
「ああ。ミルコ族は、たいていが首都サランに家をかまえている。俺は族長に育てられたようなものだからな。物心ついたときから、ここにいた」
 ラフォン城は、昔からミルコ族の族長が守っていた城なのだ。
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