旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 プレール侯爵夫人からは「作法がなっていない」と幾度となく怒鳴られ、打たれた。その恐怖が心のどこかに巣くっているのだ。
「そのドレスも、よく似合っている。俺はそういったことに疎いが、あまり見たことのないデザインだな」
 メーラがサイズを合わせてくれた純白のウェディングドレスは、スカート部分のレースが細やかな花柄になっている。胸元にも絹糸で花柄の刺繍が施され、光の当たり方で輝きがかわる。ドレスのいたるところに花の模様が描かれているのは、シーニー国が花の国と呼ばれているためで、母国を忘れないようにという意味が込められているからだ。
 それを教えてくれたのはもちろんメーラである。
「これは、母が結婚式で着たドレスです。母はシーニー国からトラゴス国に嫁ぎました。トラゴス国の……側妃として嫁いできたのです」
「だが、この国は一夫多妻を認めていない。俺の妻はお前だけだ。それを覚えておけ」
 乱暴にそう言ったアーネストは、オレリアの手を取った。
 食堂に入ると、結婚式の間にも感じた視線がオレリアにまとわりついた。だけど、アーネストが手をつないでくれたことで、その視線に強く立ち向かえる。
 この結婚を疎ましく思っている者がいる。それは覆すことのできない事実。事実であれば、それと堂々と向き合えばいい。
 教えてくれたのは、もちろんアーネストである。
 ドレスのまま食事をするのも、オレリアにとっては気が引き締まる思いだった。さらに、ナイフとフォークを使わず、手づかみで食べる料理も多い。そういった食べ物は逆に苦手である。
 スープを少しずつ口元に運ぶオレリアに気づいたアーネストは、大きな骨付きの肉塊から、食べやすいようにと肉だけをそぎ落とした。それをさらに細かく切って、オレリアの皿に取り分けてくれる。
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