旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
『オレリア。ミルコ族では、特別な日に愛する人のために手料理を振る舞うのです』
 それを教えてくれたのはシャトランであった。
 ラフォン城ではたくさんの人が働いているため、料理を用意する料理人がいる。
 だけど、その人にとって特別な日には、特別な相手から手料理を振る舞われるとのこと。
 だからマルガレットの誕生日にはダスティンが料理を作って、ダスティンの誕生日にはマルガレットが手料理を振る舞う。
『オレリアも、アーネストのために料理を覚えましょうね』
 料理なんて、芋をふかすくらいしかやったことがない。芋を育てるのは得意だが、芋を使った料理などわからない。
 オレリアが学ぶなかで、一番たいへんだったのがこの料理である。野菜の皮をむいて、切って、焼いて。たったそれだけなのに、できあがった料理の不味いこと。食べられたものではない。だけど食材がもったいないからと、無理して食べようとしたら、料理人がささっと他の料理へと作りかえた。
 料理を覚えるのがたいへんです、とアーネストの手紙に書こうとしたが、それはやめた。料理をシャトランから習っていることを、なんとなく内緒にしておきたかったのだ。
 アーネストが戻ってきたときに、美味しい手料理を振る舞って驚かせたいと、そんな思惑もあったのかもしれない。
 シャトランから料理を教えてもらうかわりに、オレリアは挨拶などの作法をシャトランやマルガレットに教えることになった。
 きっかけはマルガレットの一言だろう。
『オレリアのナイフの使い方はきれいね。私は苦手で……。近くにイグラ国の使者がやってくるから晩餐会があるのだけれど。それに、言葉も……たまに、何を言っているのかがわからなくて……憂鬱だわ……』
 ダスティンが冗談めいて「だったら、オレリアに教えてもらえばいいだろう」と言ったような気がする。
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