旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 だけどオレリアはその理由を知っている。ダスティンやデンスは必死になって隠したがっていたようだが、なんとなく人伝に聞こえてくるのだ。それに、いつも通訳としてオレリアを連れ出していた外交や社交の場から、遠ざけようとし始めたのも知っている。名目は、王子や王女たちの家庭教師となったから、だったような気がするが、おそらくオレリアの耳に他からの情報を入れたくなかったのだ。
「トラゴス大国の頭が……替わったからな……」
 つまり、国王が替わった。
 なんとなくそんな気はしていたが、オレリアには正式な知らせはなかった。ハバリー国に嫁いだ娘には興味がないのか、それとももう、オレリアという存在は忘れ去られたのか。
「……まあ、この話はおいておいてだ」
 こうやってダスティンが無理矢理に話を切り替えるのは、オレリアには聞かせられないと判断したためだろう。ダスティンの気持ちを無視してまで、その話を聞きたいとは思わない。
 十二年前のあの日。ハバリー国に嫁いだことで、トラゴス国とは縁が切れたと思っている。
 結婚式にもこない、それ以降の連絡がない。今となっては、それでよかったのだ。
「アーネストとオレリアのことだ。アーネストは、もうしばらくガイロの街にいる。私が命じたからな」
「わたしとの離縁は、陛下が命じたことではないのですか?」
「な、な、な、な。何を馬鹿なことを言っている。アーネストがオレリアと離縁を考えていただなんて、私も知らなかった。むしろ、戻ってきたら特別に長い休暇をやるから、新婚旅行にでもいってこいと、先日の報告書の返事に書いた」
 ダスティンのこの慌てようを見ていれば、その言葉は真実なのだろう。
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