旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 たったそれだけで、デンスもシャトランもマルガレットの言いたいことを理解したようだ。
「そこの食堂で給仕として働いたら、兄さんの様子が探れるんじゃない?」
「儂は反対だ。オレリアをそんな危険な場所に……」
「あら、あなた。ガイロの食堂は危険な場所なんかではないわよ。ダスティンの目も届く場所ですし」
「違う。儂の目の届かぬ場所にオレリアが行くのが危険なんだ……」
 過保護、とダスティンがぼそりと呟く。
「過保護? そうではない。アーネストがオレリアを放っておくから、オレリアをアーネストと別れさせて他の者と結婚させろという話が出ているのを、お前だって知っているだろう? その話を必死で食い止めていたのは、儂じゃ」
 オレリアの身体はピクリと震えた。知ってはいたが、こうやって実際に聞いてしまうと、アーネストとの仲を認められていないような気がしてくる。
「お義父様。だから、オレリアがオレリアとバレないようにすればいいのですよ。名前を変えて髪の色も変えて、ちょちょいと……。食堂の働き手として潜り込ませることくらい、あなたなら容易いでしょう?」
「まあ、な。……ふむ。その手でいこう。オレリアをガイロの食堂で働かせて、アーネストの様子を探る。アーネストに不審な動きがあったら、オレリア。きっぱりと諦めてアーネストと別れろ。むしろそんな男は、オレリアの夫としてふさわしくない。私がそう判断する」
 話が変な方向に流れてきた。オレリアとしてはアーネストと別れるつもりは毛頭ない。今まで一緒にいられなかった時間を取り戻すように、濃厚な時間を過ごしたいとそう思っているのに。
 だけど、ガイロの街の食堂で働きながら、アーネストの様子を確認できるのはちょっと面白いかもしれない。
 アーネストはオレリアに気づいてくれるだろうか。そしてアーネストは、どんなふうにかわっているだろう。
 少しだけ、オレリアに笑顔が戻った。
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