旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 オレリアだった。夜明けのような明るい髪の女性は彼女しかいない。
 曙色の髪はすっきりと結い上げられ、一段と大人びた表情を見せる。身体のラインを強調したドレスであるものの、スカート部分にはバラの花をあしらった飾りがいくつも縫い付けられていた。
 そういえば、彼女の母親が花の国とも呼ばれるシーニー国の生まれであったことを思い出す。
 出会ったときのような無垢な笑顔とは言えないが、相手を見つめるオレリアは、小ぶりの花がたくさん咲いたように、かわいらしく微笑んでいた。
 踊っていた相手はダスティンであったものの、アーネストの心にはぽつんと黒い染みが広がっていくような暗い気持ちになる。
 オレリアが成人したため、デンスはこれを機に彼女の後見人から降りるはず。これからは、彼女の意思によって物事を判断できるようになるのだ。だから、彼女が誰と踊ろうとかまわないはずなのに――
 知らぬうちに握りしめていた拳は、爪が手のひらに食い込むほど。
 ふと、大きな窓に写った自身の姿が目に入る。早馬を飛ばしてきたため、髪も乱れており軍服もよれよれだった。しかもこの軍服は、正装用ではない。
 これでは華やかな彼女の隣に経つ者として、相応しい姿をしているとは言えない。
 彼女は大人になったばかり。
 近頃のアーネストは、体力の衰えすら感じるようになった。若かりし頃の名声によって、今でも将軍と呼ばれる地位にいるものの、それもあと数年で後任に譲りたい。
 オレリアはこれから花を咲かせる女性。そしてアーネストはすでに花は咲き終わり、あとは枯れるだけ。
 ダスティンと踊り終えた彼女は、他の男性に誘われて踊り始める。
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