旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「あ、ジョアンさん。こんにちは」
「こんにちは、リリーさん。僕はおすすめランチ。閣下はどうされます?」
「俺は、なんでもいい」
「うわ、出た。めんどくさい男の典型。なんでもいい。てことで、おすすめランチを二つで」
「はい、おすすめランチ。二つですね。少々お待ちください」
 注文を聞き終えた給仕は、カウンターのほうに戻っていく。
「閣下。見ました? 今の子です。かわいいですよね。あの子、ミルコ族だと思うんです」
 ミルコ族は黒い髪が特徴であり、ジョアンも同じようにミルコ族である。
 そして彼女は、黒い髪を一本の三つ編みにして後ろに垂らしていた。だからジョアンが言ったようにミルコ族なのだろう。
 地味な格好をしているものに、かわいいと思うから不思議だった。
 いや、それよりも――
 アーネストは既視感を覚えた。彼女とはどこかで会ったことがあるような、そんな気がする。
「閣下、閣下……どうしました?」
 ジョアンがアーネストの顔の前で、ひらひらと手を振る。
「なんだ?」
「なんだじゃないですよ。心ここにあらずみたいな顔をして。最近、やっぱり変ですよ。奥さんが恋しい? でも、そろそろ僕たちもサランに戻れますよね?」
「サランに戻りたいのか? 彼女はどうするんだ?」
 アーネストは、顎でカウンターのほうをしゃくった。先ほどの女性はそこで料理の準備をしている。
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