旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「お待たせしました。おすすめランチ二つになります」
 アーネストの前に料理を並べるが、緊張のあまり手がぷるぷると震えた。
「ごゆっくりどうぞ」
 もしかしたら、声も震えていたかもしれない。急いで厨房のほうに戻る。
「エミさん、エミさん。どうしましょう、どうしましょう」
「よかったね。最近、閣下がこちらに来てくれなくてね。心配していたところだったんだよ」
「そうなんですか?」
「そうそう。ここ、一か月くらいかね。ぱたっと食堂に来なくなって、何を食べているんだろうという話になったのさ。まぁ、あの人なら霞でも食べて生きていそうだけど」
 一か月前。それはオレリアがアーネストから手紙を受け取った時期と一致するのではないだろうか。
「でも、お顔を見られただけで嬉しいです」
「本当に健気だねぇ。閣下も、なんでこんないい子と別れようとだなんて、思ったんだろうねぇ」
 それはオレリアが聞きたい。
 十二年間、放っておかれていたのは事実。だけど、いじめられたわけではないし、鞭で叩かれたわけでもない。手紙は届いたか届かないかわからないけれども、突っ返されたわけでもない。
 オレリアと別れたかったら、もっと早く別れを切り出したはず。
 それを今になってというのが、わからなかった。
 となれば、まだチャンスはある。十二年間、待ち続けた女の根性を舐めないでもらいたい。
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