旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「おまたせしました」
 女性の軽やかな声で顔をあげると、リリーが食事を運んできたところだった。
「こんな遅くまで、ここで働いているのか?」
 不意にアーネストの口から、そんな言葉が漏れた。
 この食堂は、一日中開いている。早朝でも真夜中でも。それは交代で任務につく兵のためでもある。
 そしてアーネストが遅い夕食のために訪れた時間帯は、子どもはすっかりと寝入っている時間であった。
「まだ、日が替わるまでには二時間ほどありますから」
 目を細くしてにっこりと微笑む姿に、アーネストの気持ちがなぜか高まった。
「だが、外は暗いし人通りもない。いつもこんな時間まで働いているのか?」
「いえ、今日はちょっと頼まれたので。次の担当の方がちょっと遅れるみたいで。その方が来たら帰ります」
「そうか」
「ごゆっくりどうぞ」
 彼女と話をするのは何度目かわからない。
 客と給仕、いつもはそれ以上の会話にはならない。しかし今は、こんな時間に食堂で働いている彼女が気になった。
 夜は男性が多く働いているし、女性であってももっと年配者が多い。やはり、若い女性がこんな夜遅くに一人でというのは、いろいろと不安な点がある。
 ガイロでは、まだこういった防犯の面に注力できていないのも理由の一つだ。やっとトラゴス国とスワン族のごたごたが片づいたところだから。
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