旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「リリー。あとはもう大丈夫だから。早く帰れよ」
 奥から男性の声が聞こえてきて、彼女は「はーい」と返事をする。
「送っていこう」
「え?」
「……いや」
 アーネストも、自分がなぜそのようなことを言ってしまったのかがわからなかった。
「こんな時間だからだ。まだ、この辺りも治安がいいとはけして言えない。何かあってからでは遅い」
「ですが、クワイン将軍にそのような……恐れ多いです……」
「むしろ、この町に住む者が安心して生活を送れるようにするのが、俺たちの仕事だ。外の広場で待っている」
 彼女は何か言いたげだったが、アーネストはベルをカランコロンと鳴らして外に出た。
 左へ行けばいつもの回廊へ続き、その先は軍所有の建物につながっている。右へ行けば噴水のある広場に出る。
 天気の良い日は、広場に道化師がやってきて人々を楽しませているし、噴水の水で遊ぶ子どもたちもいる。広場に人が集まるようになったのも、ごく最近の話だ。
 とっぷりと闇に覆われた外を、アーネストは広場に向かって歩く。噴水の吹き出る音が、異様に大きく聞こえた。
 広場の周囲にはぽつぽつとガス灯があるものの、そこから離れれば一気に暗くなる。彼女がどこまで帰るのかわからないが、やはりこんなに暗い場所を、若い女性一人で歩かせるのは危険だ。
 それに、ジョアンも言っていたように、客観的に見ても彼女はかわいい。
「あの」
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