旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 声をかけられ振り向くと、ランタンを手にしたリリーだった。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、待っていない。家はどの辺りだ?」
「あ、はい。三区です」
「三区? 失礼だが、リリー殿は結婚を?」
「しています」
 ガイロの街では居住区が一区、二区、三区と区分けされており、区分けされた地区で納税額が異なる。三区は主に、既婚者、子どもがいる世帯が住んでいる地区であるため、アーネストも彼女が既婚者であると推測したのだ。
「ならば、このように遅くなるときには、配偶者に迎えに来てもらうようにしなさい」
「……せん」
「なんだ?」
「夫は、おりません」
「どういうことだ?」
 アーネストは眉間に力を込めた。最近、こうやって顔に力をいれてしわを作ると、痕が残る。そうならないように心がけているつもりだが、彼女の今の話を聞いたら、無意識のうちにそうしていた。
 結婚しているというのに夫はいないと言われても、意味がわからない。いや、もしかしたら夫に先立たれたのだろうか。となれば、税金の安い、一区に住むことだって可能だ。
「とりあえず、それは俺が持とう。三区だな?」
 アーネストは彼女が手にしていたランタンを奪い取った。
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