旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「リリーさんが、客の一人? に口説かれてました。食堂の裏? 野菜くずか何かを捨てようとしていたのかな。そこに一人の男がやってきて、リリーさんを壁にドンって」
 それは口説いているのか、脅しているのか。判断が難しい状況である。
「それを見て、お前はどうしたんだ?」
 彼女に好意を抱いているジョアンが、どのような行動を取ったのか気になった。むしろ、そういう現場を目撃した場合、どういった行動をするのが正しいのか、参考にしようという思惑もある。
「いやぁ、ほら。人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるじゃないですか。ってことで、こそっと隠れて様子を見ていたんですよ。だって、壁にドンですよ? 恋人同士でもないのに。端から見たら、襲っているように見えるじゃないですか。僕だって軍に所属する身ですからね。リリーさんに何かあったら、助けなければと思って。こそっと」
 助けなければならないのに、こそっと見ているというのはどうなのか。ジョアンの考えることはよくわからないが、これが最近の若者たちの考えなのだろうか。
「まあ、そうしたら女将さんが裏口から出てきて、リリーさんを呼んでくれて。それで事なきを得たって感じですかね」
 ジョアンが「女将さん」と呼んでいるのは、この食堂で長く働いている女性、エミのことだ。ふくよかな体格で、年はアーネストよりも上だろう。
 ただ、そんな真っ昼間から男性に絡まれているようでは、やはり夜道の一人歩きなど褒められたものではない。
「ジョアン。夜間の見回りの強化が必要だな」
「え? どうしたんですか? 急に」
「急にではない。いろいろと落ち着いて、人々も外に出るようになっただろう?」
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