旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 ジョアンはああ見えて、やるときはやるし、やらないときはやらない。ムラッ気を持ち合わせているが、やるときの彼は大いに期待ができる。
 その資料から出される利点と欠点を洗い出し、実行まで持っていくのがアーネストの仕事である。しかしこれには追加予算が必要であるため、ダスティンの決済も必要だろう。その前に、会議にもかけなければならない。
 そうやっていろいろと対応をしていたら、今日の夕食も遅くなってしまった。ジョアンはとっくに帰っている。
 遅めの夕食のため一人で食堂に向かうと、またリリーの姿が目に入る。
 またこんな遅くまでと心の中で叱責するが、無視を決め込んだ。一度は注意したのだ。これ以上、彼女に深入りしたら、特別な感情を持ち合わせていると思われてしまうだろう。
 以前もジョアンがそのようなことを口にして、非常に焦った。
 今日は男性の給仕が注文を聞きにきた。気もそぞろになりながらも、いつもと同じものを頼む。
 いつもと同じ料理が出され、口へと運ぶ。だけど今日は、味気なかった。いつもと同じであるはずなのに。
 気がつくと、リリーの姿が見えない。もう、帰ったのだろう。
 食事を終え、支払いを済ませて外に出る。
 夜風が少し長くなった髪を弄びつつ、頬をなでていく。それが、食事によって火照った身体に心地よい。
(彼女は、無事、帰れただろうか)
 右側に顔を向けると、広場を照らすガス灯がぼんやりと見えた。
「……きゃっ」
 女性特有の甲高い悲鳴がかすかに聞こえた。
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