旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「きゃっ」
 倒れそうになった彼女を思わず抱きとめ、気がついたときには男たちの姿はどこにも見えなかった。
「すまない。取り逃がした」
「いえ……ありがとうございます……」
 腕の中の小さな身体は震えていた。
「知っている男か?」
「は、はい。何度か、食堂で見かけたことは……」
「そうか」
 ジョアンから聞いた話とつながるものがある。これは詳しく話を聞いておいたほうがいいだろう。だが、今日は無理だ。
「家まで送ろう」
「い、いえ。大丈夫です」
 彼女はなんとか一人で立とうとしたが、力が入らないのか一歩を踏み出すことができない。
「不快かもしれないが、俺がお前を抱いて家まで連れていく。いいな?」
「は、はい……」
 抱き上げた彼女は、思っていたよりも軽かった。
 こうやって誰かを抱き上げたのは、あのとき以来だ。結婚式の食事会のあと、オレリアを部屋まで連れていったとき。
「大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
< 94 / 186 >

この作品をシェア

pagetop