旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 今日は月も出ているためか、ランタンがなくても道が見えるほど明るい。
「ここだったな」
「そうです」
「家の中に入れば安心だろう」
 扉の前で彼女をおろした。小さな鞄から家の鍵を取り出して、扉を開ける。それがきちんと閉まるのを見届けてから、戻ろうと思った。
「……で、ください……」
 気づいたときには、上着の裾を彼女がひしっと掴んでいた。
「一人にしないで、ください……」
 身体を強張らせている彼女を、アーネストは眉間に力を込めて見つめた。彼女が怖い思いをしたというのは、その現場を目撃したから理解できる。
 しかし、一人にしないでと言われて、アーネストがここにいていいかがわからない。いや、駄目だろう。
「家族などはいないのか? 友人など……」
 アーネストの上着の裾を掴んだまま、リリーは首を横に振る。
「ここに、一人で住んでいるので……」
 誰か呼んできたほうがいい。だけどその誰かにアーネストは心当たりがないし、さっぱりわからない。
「お願いです……一人にしないでください……アーネストさま……」
 そう言ってアーネストを見上げた彼女の姿がオレリアと重なった。ドクンと鼓動が跳ね、手足の先まで熱い血が流れていく。
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