旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 思わず彼女の身体を抱きしめ、そのまま家の中へと入る。
 パタン――
 扉の閉まる音が室内に大きく響く。
 身体を重ねた場所からは、互いの鼓動を感じる。
 彼女はオレリアではない。頭ではわかっているはずなのに、身体が求めている。
「怖かった……怖かったんです。あそこで、アーネストさまが来てくださって……」
 アーネストの胸に顔を押しつけるかのようにして、彼女は涙を流す。
「ああ……怖かったな……」
 子どもを宥めるようにやさしくその背をなでるものの、アーネストの身体は明らかに反応していた。駄目だとわかっているのに、本能には抗えない。それでもまだ、ギリギリ理性を保つ。
「アーネストさま……」
 彼女が顔をあげると、海のような碧眼がまっすぐにアーネストを捕らえた。
「何をされた? 触られたのか?」
 灯りもない暗い室内、それでも月明かりがどこからか差し込み、涙を流す彼女の顔がはっきりと見えた。
「どこを触られた」
 さざ波のような声色には、アーネスト自身も気づかぬうちに、怒気が込められていた。
 腹立たしい。彼女に触れた男が憎い。
 そのような感情が沸き起こる理由はわからない。
「ここを触られたのか?」
 肉付きのよい丸いお尻を、右手でなでる。
「あっ……う、ん……」
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