恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜
二十三歳半〜私ったら、〇・一トン?!〜

1.

 二年前。
 八重桜やチューリップ、ライラックが咲き誇る、五月。

 H大学VR研究室に出向中で、教授秘書である私、出船(でふね)優希(ゆうき)、当時二十三歳六ヶ月は、人生で初めてぎっくり腰になりました。
 
 ◇■◇ ◇■◇
 
 出勤前、歯磨きをしようとして洗面台にかがみ込んだとき。
 ぐき。
 背骨からそんな音が聞こえたなと認識した瞬間、世界が固まった。
 正しくは私が固まったんだけど。

「……えっと。どうした、私?」
 
 とりあえず、かがんだ姿勢から背筋をただそうとしてみた。すると、今まで感じたことのない激痛がはしる。

「ひっ!」

 それまで、自分がドラマに出てくるような悲鳴をあげられるなんて、思ってもみなかった。

「……う、動けない……」

 背骨という名の積み木がきちんと積まれてないせいで、体の重みを支えきれないという感じ。
 ユニットバスだったのが幸いして、なんとかトイレに座りこめた。

 腕時計を見れば、出勤時間が迫っている。
 しばらくじっとしていたら症状が落ち着いたので、咄嗟に立ちあがろうとしてみた。

「まずい、大学にいかないと! ……ひっ」

 またしても激痛がはしる。

「……私の、バカぁ……」

 またやってしまった。
 頑張ったら立ち上がれるけど、無理すると背骨が折れそうな激痛だ。
 大袈裟かもしれないけれど、それ以外の表現が思いつかない。

 あきらめて、座ってみた。
 時計を見ると、八時十五分。
 学務課が出社してくるのは始業開始の十五分前。なので八時四十五分にならないと、連絡もできない。
 
「嘘でしょう……」
 
 授業が始まる五分前には研究室を開けなければいけないのに。
 ……まあ、うちの研究室、みんなこっそり鍵を持ってるから困る人はいないけど。
 遅刻するにせよ、休むにせよ、大学に連絡を入れないとならない。
 
「そうだ」

 研究室を開けてもらうのは、リーダーであり上司である森君にメッセージすればいい。
 けれど、ベッドサイドにある充電器にささっている携帯電話まで、とてもではないけれど歩けそうにない。
 
「メールが出来る腕時計でよかったぁ……」

 何度か立ちあがろうと試みたけど、あきらめた。

 八時四十五分。

「腰が激痛で動けません。休みます」
 
 連絡を入れた。
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