恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

9.

「おーっす。って、なんで出社してんの。今日、土曜日だよ?」
 
 私はふい、と顔を横に背ける。
 
「や、やることあったんだもん」
 
 武尊に会いたいから、なんて言えない。
 それと彼はながらく出張していたから、早く結果を聞きたかった。
 
 武尊はふー、とため息をつくと、ソファにどかりと座り込んだ。

 私はキッチンに行って、手製の冷たいレモン蜂蜜ジュースを持ってきた。
 渡しながらそっと問う。

「どうだった?」
「だめ」
 
 武尊は、売り出すソフトのデータ取りのために北海道内はおろか、国内の目ぼしい病院を回っていた。
 
 ……目の付け所はいいんだけど。
 なかなかシステムとして売り出すのは、難航している。
 というのも最初の難関、手術データが必要なだけ得られない。
 武尊が難しい顔になる。

「生体じゃないデータ……法医学系や、学生の解剖実験で、割と簡単に取れるんだ」
 
 それでも、各所への根回しや認可が必要だったらしいけれど。
 
「患者を実際に執刀している医師がね」
 
 自分の技術流出を嫌がる人もいる、らしい。

「大学病院だと、オペ中の術室内の映像開示している所もあるんだけどね」
 
 そういうところですら『バーチャルが経験を積んだことになるのか』と懐疑的な意見もあるらしい。
 曰く『自分の目で確認し、ロボットを自ら操作する遠隔手術とは別物だから』と。
 
 私は慰め方がわからないまま、呟く。
 
「似て非なるものなのは、わかるけど……」
 
 海外だと、新人医師もバンバン手術をさせてもらえるので、経験値が爆上がりするらしい。
 誰でも行けるわけではないし、逆に誰でも行けるとなると、今度は日本の医師が少なくなってしまう。
 
「たとえば、筋肉を切断するときの感覚をデータ化するには。負荷を計測する装置を、執刀医に装着してもらわなければならない」
 
 手術は、ただでさえ精密かつ細心の注意が必要。
 執刀医の負担は大きい。これ以上ストレスを与えてどうする、と言うのだ。
 
 私は小さな声で呟く。
 
「私は、誰でも難しい手術ができるようになったほうがいいと思う」
 
 そうしたら、将来。
 毎年のように『⚫︎⚫︎君(十一ヶ月)、数億円の支援金を得て、心臓手術のために渡米』と言うニュースを見なくなるかもしれない。
 
「燃えるぜ! ……いざとなったらアメリカや他の国を回ってデータを取らせてもらうし!」
 
 逆境に強いのか、武尊は眸にメラメラと炎を宿している。
 か。
 ふいに、武尊が私を振り返った。
 
「今の俺の顔、『かっこいい』って思ってくれた?」
 
 見透かされたように訊かれた。上手く誤魔化せない。
 
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