恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

10.

「あ、うん。そうですね、かっこいいです。惚れ直しました」
 
 わわわ。
 私、なにをどさくさまぎれに喋ってしまったんだろう。
 焦ったあまり、敬語になる。
 
 私がパソコン作業をしているフリをていると、武尊がデスクに手をついてきた。
 恐ろしく真剣な目で見つめてくる。
 
「出船優希さん、好きです」
 
 武尊は躊躇することなく言い切る。……なんとなく、そうであればいいなと思っていたけれど。
 
「一目惚れでした。俺と付き合ってください」
 
「い、いです、けど……しゃ、社内規定は」
 
 緊張しすぎて、裏声になってしまった。
 武尊が笑う。
 
「そんなもんないよ」
 
 彼がもう一度真剣な顔になった。どんどん近づいてくる。私はぎゅ、と目を瞑った。
 唇に、柔らかいモノが触れる。
 それは、触れてきたと同じくらい、そっと離れて行く。
 
「……いやじゃなかった?」
 
 訊ねられ、私はふるふると首を横にする。
 いやじゃなかった。
 ただ。
 
「男の人も、唇、やわらかいんだ……」
 
 うっとりとつぶやいたら、なんだそれ、と笑われた。
 
 見つめあっているうち、ふいに武尊は真っ赤になった。

「誠司の研究室に行ってくる」

 言いながらオフィスを出てしまった。
 ……私は。人生初のキスにポーッとしながら、閉まったドアをいつまでも見ていた。

◇■◇ ◇■◇
 
 あとで聞いたら、武尊は森君に私と付き合うことになったと報告しに行ったらしい。
 森君から、お祝いのメールが届いた。
 
『おめでと。俺、人生二周目だから、目の前でイチャイチャしても構わないよ』
 
「……社内メールで送ってくんなし……」
 
 私はデスクに沈没した。
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