恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

10.

 彼は私に触れられなくて、不満そうな顔をしている。
 私だって抱きつきたい。
 でも、モヤモヤしたまま、元サヤにはなれない。

 私が譲歩しない構えだったから、彼も真剣な顔になった。

「武尊、聞きたいことがあるの」
「優希に隠し事はしない」

 キッパリと言い切ると、なんでも聞いてと両手を広げてくれた。
 ……ずるいなあ。
『百パーセント、優希を受け入れる』という武尊のジェスチャーだ。幾度、慰められてきたことだろう。

 だめ。
 流されないで、足を踏み締めて、両目でしっかりと彼を見極めるんだ。
 
「私のこと、今までどう思っていたの」
「一番大切にしたい人で、大好きな恋人」

 即答される。
 嬉しい。
 けれど、ためらいがなさすぎる。
 まるで、想定していた問答みたい。

 さっきまで彼のことを信じようとしていた心が、簡単に疑う気持ちへとひっくり返る。
 オセロみたい。

「私は会社の武尊にとって、都合のいい事務職員だったんじゃないの?」

「その質問が『少ない給料でこき使われる』を意味するのなら。ベンチャー企業としては低いかもしれない。だが、少なくとも金銭的には年齢の中央値を払ってる。むしろ払えるなら、もっと払ってでも繋ぎ止めたいと思ってる」

 中央値とは、年収を小さいほうから順番に並べたときに中央にくる数字のことだ。
 平均値のように極端に大きい数字の影響を受けることがない。

「……色々なことを任せてた認識はある。大変だったよな、ごめん」
 
 申し訳なさそうに謝られて、ううんと咄嗟に否定してしまう。

 資料作成、データ集め、飯スタント。
 武尊と森君のスケジュール管理。
 取引先や商談相手に連絡をし、会う約束を取り付ける。
 どれもやりがいがあった。
 
 きゅ、と胸の前で両手を握りしめる。
 
「……私のこと、本当に好きだった?」

 声が震えてしまう。
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