恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

2.

 ぐ、ぐううううう……。
 不思議な音が聞こえてくる。
 
「うん?」

 私はサンドを頬張りながらキョロキョロしてみた。
 と、男性と目が合う。
 少しウエーブの入った髪で、タレ目の優しい顔立ち。けれど、とってもイケメンだった。
 背が高い。多分、百八十センチ超えはしている気がする。
 
 でも。
 合同説明会とかで見かける、同級生の男の子みたいなリクルートスーツじゃない。
 ……もしかするとオーダー、だよね。
 詳しくない私でもわかるほど、彼にピッタリ合うダークグレーのスリーピースを着ている。
 
 ワイシャツの襟は白だけどボディスは水色。
 お洒落な柄のネクタイを締めている。
 靴も、男の子達が履いているような真っ黒じゃなくて、ブラウンでカッコいいデザイン。

 教授にしては若すぎるし、大学院生にしてはぱりっとしすぎている。
 
「……大学にセールスに来た人かな」
 
 私は結構、長い時間男性をじぃぃっと観察していたらしい。
 
 対する彼も、なぜか私に釘付け。
 もしかしたら人生二十一年目にして、とうとう私の美貌に気づく人が現れたのかもしれない。
 
 きゅるる……と、今度は可愛い音が聞こえてきた。
 男性が、パッとお腹を抑える。
 さっきも今も、彼のお腹の音だったらしい。
 
 と、いうことは。
 私はまじまじと自分の手を見つめる。
 彼が見ているのは残念ながら、私ではなく手の中のお弁当。

 男性の目が物欲しそうに私のオムレツサンドを見つめているけれど、さすがに知らない人に口をつけた食べ物は渡せない。
 
 ごっくん。
 私は口の中のサンドを飲み込んだ。
 ごっくん。
 彼の喉も鳴る。
 ぐう。
 もう一度、男性の腹が鳴り、彼の顔が真っ赤になった。
 
「あの」
 
 私はランチボックスから、手をつけていないベーグルサンドを彼に差し出してみた。
 
「召しあがります?」
 
 フラフラ……と男性は近寄ってくると、私の手からベーグルサンドを受け取った。

 それが、のちに副社長の森君から『優希ちゃんによる、武尊の一本釣り』と揶揄われる出会いだった。
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