恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

4.

「うん。うち、社員二人だからね。俺は社長兼営業担当」
 
 深山君を、ジロジロと見つめてしまう。
 世の中にはベンチャー起業というものがある。
 インタビューを受けている社長が二十歳前半、という会社があることだって知っていたけれど。実際に会うのは、初めてだった。
 
「ナイスなアイディアを思いついたんだ。誰かがやっちゃう前に、俺らがしないとね」
 
 ……フットワークの軽い人なんだなぁというイメージだった。 
 冒険しないで安定したいと考えている私と大違い。
 けれど、羨ましさもあった。
  
「どんなことをしているんですか?」
 
「 VRを使ったモノを売るんだ。プレゼン資料、見る?」
 
 断るまもなく、無音で資料が動画のように展開されていく。
 
「どう? 興味でた?」
 
 ワクワクしながら聞いてくれたが。
 私はようやく飲み込めた情報をなんとか咀嚼してから、ゆっくりと口に出す。
 
「……多分。心臓外科医や脳外科医を目指すお医者さんのための、バーチャル手術アプリなんだよね?」
 
 名医になるには経験を積むしかない。
 けれど、日本の若手は手術経験が少ない。
 なので執刀させてもらえない。
 すると経験が積めない、だから手術させてもらえない……の、無限ループに陥ってる? らしい。
 
「そのとおり!」
 
 なんだか、深山君のお尻からふさふさのしっぽが生えて、ものすごい勢いで振っている幻が見えた。
 
「すごいものを考えついたね……」 

「ありがとう! で、資料を見てもらって、なにか欠点ある?」

「わかりづらい」
 
 目をキラキラさせてこぶしを握りしめた彼に、申し訳ないけれど正直に伝える。
 とたん、彼が固まってしまう。
 
「……え、と。どこらへんが?」
 
「まずマニアック。あと、展開のスピードが速い」
 
 私は淡々と指摘する。
 
「専門用語ぎっしりだし、文字ばっかり。相手が私みたいな素人だったら、十秒保たないで飽きちゃうよ?」
 
「……十秒……」
 
 呆然と繰り返した後、彼はICレコーダーを取り出した。
 録ってもいいかな、と訊いてきた。
 私は頷きながら感じたことを伝える。
 
「音声と文字がなくても、理解できるのが理想じゃないかな? 多分、日本だけじゃなくて、いずれ海外も視野に入れてるんでしょ?」
 
 いろんな言語バージョンを作るのはコストがかかる。
 最初から普遍的で、誰にでもわかりやすいものに作ってしまったほうがいい。
 
「確か、ユニバーサル・デザインというんだっけ?」
 
「……なるほどね……」
 
 呟くなり、彼はノートパソコンを取り出すと、恐ろしい勢いでカチャカチャいじり始めた。
 
 
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