恋の障壁は0.1㌧!〜痩せたら大好きな彼に復讐しようと思ってました、だがしかし〜

5.

 思わず、見守ってしまう。
 十五分ほど経ってから、もう一度タブレットを見せてくれる。

 私は目を見開く。
 わかりやすい。文字の代わりにイラストがたくさん使われている。展開も飲み込めたな、というちょうどいい感覚で動く。
 やっぱり、この人はすごい。
 
「全部改善されてる!」
「ねえ、出船さん。俺のところで働かない?」
 
 私の歓声と彼の勧誘は同時だった。
 
「……へ?」
 
 ちょっと待って、意味がわからない。
 だって会社立ち上げたばかりなんでしょう、人を雇う余裕あるの?
 
「俺のところに就職しなよ。出船さん、即戦力だよ!」
 
 誘ってくれたのは嬉しい。
 けれど、ふるふると首を横に振る。
 
「私、まだ三年だし」
 
 中退するつもりはない。
 正直、彼の会社の安定性について不安だ。
 しかし、深山君は熱心に口説いてくる。
 
「じゃあ、バイトで来て。で、出船さんが卒業する頃には安定した業績にしておくから!」

 自信満々に言われてしまった。
 卒業式のときに安定してても、間に合わないんですけれど。
 万が一、彼の会社が軌道に乗る時期がずれてしまったら、私は就職浪人になってしまう。
 でも。
 
「……うん」
 
 私は無意識に頷いていた。
 多分、イケメンで人懐っこい彼に一目惚れしたんだ。
 少しでも一緒の時間を過ごしたい。
 
「わかった。いつからバイトすればいい? あ、今日は合同説明会に行くから、ダメなの」
 
 ドタキャンは失礼だ。
 私があっさりと言うと、深山君は勢い込む。ずい、と私に近づいてくる。
 
「出船さんが大丈夫なら明日からでも!」
 
 ち、近いよ! 
 私、イケメンどころか、男の人とこんな距離にいることないんだからね!
 可能な限りベンチの端っこに避難するのに、深山君はぐいぐい距離を詰めてくる。
 これ以上は落ちちゃう。
 
「ちょっと待っててね」
 
 片手で彼を制止ながら、片手で携帯を操作して、就活スケジュールを確認する。
 ようやく深山君が止まってくれたので、私は内心ほっとする。
 何社かへ、説明会の参加キャンセルのメッセージを送った。
 
「来週から大丈夫」
「ありがとう! ダチも喜ぶ! あ、大事なこと忘れてた。これ時給で交通費は全額支給」
 
 概要を見せてくれた。ふむ。これならありかな。
 
「うん、じゃあよろしくお願いします」
 
 深山君から名刺をもらい、私達は連絡先を交換し合った。
 
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