嘘つき義弟の不埒な純愛

「もうっ!信じられない!」

 少し早めに出勤した寿々が、今日のタスクを整理していたその時、オフィスの入口から怒声が聞こえた。
 いつもはのほほんとしている後輩が、憤慨しながらこちらに歩いてくる。
 寿々は不穏な気配を感じ、思わず尋ねた。
 
「どうしたの?」
「見てくださいよ、この下世話なニュース!」

 彼女がそう言って見せてくれたスマホには、とある週刊誌のニュースサイトが表示されていた。

【水無月梓、またしても共演者とドラマの打ち上げで】という下世話な文字が踊っている。
 
「梓くんがこんな三流女を相手にするわけないじゃないですか!まーたヤラセ!でたらめです!」

 彼女はムキになりながら、ドスンと寿々の隣に座った。
 デスクが隣の彼女は自他ともに認めるかなり強火の梓ファンである。梓の情報を毎日かかさずチェックしては、SNSの投稿にこまめにコメントを入れている。
 梓と義理の姉弟であることは、会社では内緒にしている。
 サインや私物を求められても困るからだ。

(うーん。またか……)

 まだ怒りがおさまらない後輩の様子を眺めながら、寿々は心の中で苦笑いした。

(それにしても、これで何回目?)

 梓はこれまで共演した女性と数々の浮名を流してきた。
 しかし、だいたい熱を上げているのは女性だけで、梓にその気はないみたいだ。
 その証拠に梓の部屋の中には、女性を連れ込んだ形跡がない。
 単なる友人以上の関係を匂わせるものは一切出てこない。
 お酒の力が手伝ったその場のノリだけという線もありえそうだ。

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