嘘つき義弟の不埒な純愛

(まあ、しかたないか。梓だし)
 
 姉の寿々に対してもスキンシップが過剰な時があるくらいだ。
 たとえ本人にその気がなくても距離感が近い分、女性から誤解されることも多そうだ。
 先ほどチラとみた写真。
 モノクロな上に、ところどころボカしてあったが、ふたりは今にも唇が重なりそうな距離で見つめ合っていた。
 お相手の女性は、若手でも百年に一度現れるかどうかの逸材と言われているらしい。
 人懐っこい明るい性格と、梓と並んでも見劣りしない美しい顔立ち。
 なんて絵になるのだろう。
 そう思った瞬間、ざらりと胸の奥をなにかが横切っていく。

「水無月、今いいか?」

 篠原から声をかけられた寿々は、ハッと我に返った。
 パソコンの時刻を見れば、いつの間にか就業時間が始まっていた。
 寿々は慌てて居住まいを正した。

「はい、なんでしょう」

 篠原は手元の資料を寿々に見せた。
 
「このクライアントなんだが、前任者からの引継ぎの件で、午後時間があれば同行してくれないか?」
「はい。構いません」
 
 資料を確認し寿々は小さく頷いた。
 家庭の事情で二週間前に退職した同僚の担当先のいくつかは、寿々が受け持つことになっている。
 篠原が見せた資料もそのうちの一社だ。

「そうか、ありがとう。よろしく頼む」

 篠原が去っていくと、寿々はふうっと息を吐き出した。
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