嘘つき義弟の不埒な純愛
「ほら、うちの社長って元博映堂の営業部長だったじゃないですか?今の博映堂の副社長とも大学時代、同期だったらしいんです。この間、こっそり立ち聞きしちゃったんですけど、実は篠原係長、今は後継者になるべくいろんな会社で武者修行してる最中なんですって」
「そう、なんだ……」
もし彼女の言う通りなら、納得できる部分もある。
篠原は物腰も柔らかく、性格も穏やかだ。
どこか落ち着きのある雰囲気は、育ちの良さからくるものだったのだ。
「ね?俄然、篠原係長に興味が湧いてきません?」
「私は――」
後輩ちゃんの追及から逃れようと視線をそらしたそのとき、テーブルの上に置いたスマホが新着メッセージの到着を通知した。
寿々はこれ幸いとばかりにスマホを手に取った。
【カウンターの上の時計って寿々の?】
メッセージの送り主は梓だった。
梓も一日経ってようやくカウンターの上の腕時計の存在に気がついたらしい。
【うん。そう】
しばらく預かっておいてと、続けて返信しようと思っていたら、今度は電話がかかってくる。
寿々はスマホを持ち、休憩室から出て、廊下の突き当たりまで歩いた。周りに人がいないのを確認して、ようやく電話に応じる。