嘘つき義弟の不埒な純愛
「どうしたの?」
『時計、届けようか?』
「いいよ。今度で」
時計ひとつで大げさすぎる。
たしかにあの時計は梓からもらった物だけど、時刻はスマホで確認すればいいし、手元になくても差し当たって困らない。
『今日は早く帰れるし、届けてやるよ。ついでに外で食事する?この間、ドラマの打ち上げで連れていかれた沖縄料理の店がやたら美味くて――』
打ち上げと聞いて真っ先に思い浮かべたのは、始業前に見せられたあの写真だった。
「いいってば!」
気がつけば、寿々は声を荒らげていた。
すぐさまハッと我に返り、慌てて会話を取り繕う。
「ほ、ほら!いくら姉弟だからって、そんなに頻繁に会ってたら梓の彼女だってよく思わないでしょ?」
焦れば焦るほど墓穴を掘っていくのが、自分でもわかった。
いくらなんでもこれでは感じが悪すぎる。
まるで梓が週刊誌に撮られたのを、遠まわしに皮肉っているみたいな言い方だ。
『そうかもな』
梓は怒るでもなく、慌てるでもなく、淡々と告げた。
寿々とは真逆の感情を抑えた大人の振る舞いに、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
「とにかく、時計は次に会った時でいいから!」
そう言って寿々は無理やり通話を終わらせたのだった。