嘘つき義弟の不埒な純愛
◇
「無事に終わってよかったな」
「はい。そうですね」
無事に顔合わせを済ませ、取引先から篠原と肩を並べて帰る。
前任者同様、寿々とも良好な関係を築いてもらえそうで一安心だ。
「水無月が次の担当で安心だな。水無月の担当先はおしなべて、うちの会社への評価が高い。堅実な営業の成果だな」
「そんなことないです」
「謙遜するなよ」
篠原はハハッと朗らかな笑い声を聞いて、寿々はふと昼休みの後輩の言葉を思い出した。
『みーんな言ってますよ。係長は寿々さんに気があるって』
ボンッと顔が熱くなっていく。
(変なこと言うから意識しちゃうじゃない……!)
篠原の人心掌握のための社交辞令だと必死で言い聞かせる。
「そうだ、食事でもして帰らないか?この辺りにいい店があるんだ」
「え?」
「嫌か?」
寿々はしばしの間、逡巡した。
ここで断ったら彼女の言葉を間に受けたみたいにならないか?
篠原が寿々に好意を寄せているなんて、自意識過剰もいいところ。
「いいえ。お供させていただきます!」
寿々は自惚れた考えを振り切るように勢いよくそう答えた。