嘘つき義弟の不埒な純愛
「いい加減、素直に認めろよ」
「ん!?」
寿々は突然顎を掬い取られ、唇を梓のもので塞がれた。
後頭部を支えるようにホールドされ、強引に生温かい舌をねじ込まれる。
口腔の奥まで蹂躙されて息が苦しい。
「や、やめっ……」
「うるさい」
息継ぎの合間に訴えても、梓はまったく聞く耳を持たなかった。
それどころか、やめろといくら胸を叩いても、口づけをやめる気配は一向に感じられない。
(だ、め……)
こんなの間違ってる。姉弟なのにおかしい。頭の中で激しく警鐘が鳴る。
梓は芸能人で、スクープを狙った記者が張りついている可能性だってあるのに、いくらなんでも無頓着すぎる。
寿々は激しいキスで朦朧とする意識の中、梓のスキャンダルのことを思い出した。
あの女性ともこうしてキスしたのかもしれない。
「やっ……!」
寿々は渾身の力で梓を突き飛ばした。
酸欠ではあはあと肩で息をする。
二、三歩よろけた梓は傷ついたような濡れた瞳で寿々を見つめていた。
――梓も所詮『あの人』と同じ男なのだ。
怒りと恐怖で頭がぐちゃぐちゃだった。
まるで、一緒に過ごした二十年間が、なかったことにされたみたいで。
寿々は後ろを振り返らずに、マンションの建屋の中に入り、自室に駆け込んだ。
後ろ手に扉を閉めた途端、涙が溢れて止まらなくなる。
(なんで?)
いつから梓は寿々をひとりの女として見ていたのだろう。