嘘つき義弟の不埒な純愛

「ありがとうございます」

 寿々は缶コーヒーを手に取り、声の主を仰ぎ見た。
 コーヒーを差し入れしてくれたのは篠原だった。
 
「何か悩んでいるなら聞くぞ」

 寿々はついギクンと肩を揺らした。
 部下のメンタルチェックは上司の仕事の一環だから?
 それとも、先日の告白は本気だという意思表示?
 寿々はまだ篠原からの交際の返事を保留にしている。

「今夜また食事に行かないか?美味いオイスターバーがあるんだ。地中海産の白ワインによく合う」

 篠原は弾けるような笑顔で、寿々を食事に誘った。
 篠原からのアプローチに、ドギマギすると同時に胸が苦しくなっていく。

「すみません。今日は用事が……」
「そうか。じゃあ、また誘う」

 篠原があっさり引き下がってくれて、ホッとした。なんともいえない罪悪感に今にも押し潰されそうだ。
 ……本当は用事なんてない。
 寿々は篠原から真摯に向けられる好意がただただ恐ろしかった。
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