嘘つき義弟の不埒な純愛

 ◇

 仕事が終わりアパートに帰り着いても、スマホを片時も離さず眺めていたが、その後も梓からのメッセージは届かない。
 ときおり企業からの販促メッセージが通知されるだけで、肝心の人から連絡はなかった。

(バカみたい……)

 寿々は気分変えるために、なんとはなしにテレビをつけた。すると、ちょうど梓が出演するバラエティ番組が放映されていた。
 発売されたばかりのフォトブックの宣伝だろう。
 寿々は膝を抱えながら、梓が出演するドラマの一部分を切り取ったVTRを眺めた。
 梓は迫真の演技でヒロインを魅力している。
 画面の向こう側にいる彼は、寿々に接する時とはまるで別人だった。
 ヒロインを慈しみ、愛し、守る。誰もが理想とする心優しい彼氏役を上手に演じていた。
 檻から解き放たれた獣にも似た、先日の雄々しい表情とは似ても似つかない。

(いつの間にこんなに大人になったの?)
 
 梓の演技を見るのはいつ振りだろう。
 この仕事を始めたばかりの頃の彼とは、髪の長さや体格も、演じる役柄すら変わっている。
 それ以上は見てられなくて、寿々は十分ほどでテレビの電源を落とした。
 もし梓の瞳にチラとでもヒロイン役の女性に対する恋慕の情が映っていたら。
 そう考えるだけで、胸が苦しくなる。

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